滋賀県甲賀市。
古くから陶芸の里として親しまれている『信楽焼』の魅力を探る旅をしました。
日本六古窯の1つ、たぬきの陶器が有名な信楽焼を生み出す窯元では、今も手作りで一つひとつの工程にこだわりながらうつわづくりが引き継がれています。
信楽は窯元はもちろん、信楽焼のうつわを使うカフェも多いエリア。
近年話題になった朝ドラ「スカーレット」のロケ地を巡るのも面白いかもしれません。
この旅では、そんな信楽という地域の魅力を歩いて巡りながら、暮らしに寄り添ううつわを作る「古谷製陶所」を訪ねました。
目次
信楽高原鐵道に乗ってゆったり旅のスタートを
JR草津駅から草津線に乗り換え、さらに信楽高原鐵道に乗り信楽駅へ。
車窓からは瓦屋根の家々と田んぼが見渡せ、のどかな雰囲気が続きます。
ゆったりとしたローカル線の旅、それだけでなんだかわくわくしますね!
信楽駅に到着したら、大小さまざまなたぬきがお出迎え!まるで大家族のような賑わいに、歓迎を受けたかのような気分になりました。
信楽を訪れた日は晴天、お散歩日和です。
ゆっくりとのどかな風景を横目に散歩に繰り出します。
まず最初に向かったのは「滋賀県立陶芸の森」。
「陶芸の森」で信楽焼の歴史を学ぶ&「銀月舎」にてランチ
滋賀県立陶芸の森は、やきものを楽しみながら見学・体感できる施設。
陶芸専門の美術館「陶芸館」、ショップ&ギャラリー「信楽産業展示館」、制作スタジオ、広場の4つのエリアに分かれています。
標高300mの丘の上に建っているため、広々とした信楽の空気を感じられます。
野外展示を眺めながら広場を散策。
かつては信楽焼の生産が8割を越えていた火鉢の展示もたくさんありました。
ランチは、陶芸の森の敷地内にある「山とおむすび 銀月舎」さんにていただきました。
2022年1月にオープンしたばかりのこちらのお店では、信楽焼の羽釜で炊いたふわふわのおむすびを中心とした和食ランチがいただけます。
店内は広々としていて、太陽の光が差し込みほっとする雰囲気。
植物とナチュラルな家具、そしてストーブがほどよく雰囲気になじんでいます。
また、店員さんに使っているうつわやメニューへのこだわりをお話いただきました。
これから見学に行く「古谷製陶所」さんのうつわも発見!
信楽焼のうつわがきれいに並び、まるでギャラリーを見ているかのようでした。
ランチは日替わりから定番まで3種類で選べます。
私は「お肉定食」をチョイス。
信楽焼のうつわに丁寧に盛られたランチは、一つひとつの素材がしっかりとしていて、噛みしめながら味わえました。
日本の旬の素材を少しずついただく、そんな体験です。
季節の食材をふんだんに使った優しい味わい、ぜひまたゆっくりと訪れたい場所です!
TORASARUで絶品チーズケーキを
その後はもう1軒気になっているカフェ&ギャラリーへ。
陶芸の森から歩いて約10分、大通りを曲がった先にあるスタイリッシュな外観が目印の「TORASARU」へ。
チーズケーキに好評のあるお店で、店内入ってすぐのショーウインドウにはさまざまな種類のチーズケーキがずらり。
迷いに迷ったあげく「朝宮抹茶レア」をチョイス。
地元の抹茶とクリームチーズが濃厚でコーヒーとの相性抜群!窓の景色から光が差し込み、穏やかなコーヒータイムを過ごせました。
また、ギャラリースペースには信楽焼をはじめとする店主が取り揃えたカップやうつわがずらり。
見ているだけでもその美しい姿に心を奪われてしまいます。
古谷製陶所さんまで行く途中、ドラマ「スカーレット」の舞台地とも呼ばれる場所「陶器神社」へ。
丘を少し登った所にあるため、神社の風格が漂います。
信楽の街並みも一望できました!
のどかな道やたぬきの置物を横目に、いよいよ「古谷製陶所」へと向かいます。
「暮らしに寄り添ううつわ」を手作りする「古谷製陶所」
住宅街の角を曲がった先に「古谷製陶所」はあります。
大きな工場とギャラリー、工場の奥からはうつわづくりに携わるスタッフの方々の姿が。
どのように作られていくのか、順番に工程を見学させていただきました!
工場と併設するギャラリーと新たに料理教室やイベントを開催するためのスペースも見学しました。
ご案内していただいたのは古谷浩一さん。
お父様の後を継ぎ、今は古谷製陶所の代表をしています。
「大変なこともあるけど、何より楽しむためにどうしたらいいか、という視点で、日々楽しみながらうつわを作っています」と笑顔でお話いただいたのが印象的でした。
では、早速各工程を見学させていただきます!
まずはろくろで成形。
1時間に約40~50個を作りあげていきます。
一瞬で形になじんでいく姿に驚き。
あっという間にできあがります。
高さを測る道具もありますが、今はほとんど感覚的に同じ形にできるのだとか・・・!
お話ししながらも手元を次々に動かしていく姿に職人の日頃の努力が垣間見れました。
ろくろで形作ったものは一晩寝かせて堅さを調整していきます。
そしてけずりの工程へ。
成形した物をより細かく調整していきます。
わずかな丸みのラインをほとんど感覚で整えていくそう。
どのような基準で削っているのかをお伺いすると「頭の中にイメージがあって、イメージに近い形に近づけていく」とのこと。
マニュアルはあるけど、お父様から引き継いで今の感覚を手に入れたそうです。
こちらは古谷製陶所でも人気を誇るかわいいりんごの形をしたうつわです。
実はこのりんごの形は「りんごを作ろう」と思い立って生み出したわけではないそう。
「毎日ろくろをしていると、飽きてくるんですよ。だから日々何かないかな、と思いながら手を動かしています。レモンや葉っぱの形をしていて、あるときもっとこうしたらどうだろう、と上部をひねってみたら、りんごの形になったんです」とのこと。
「そうやって少しずつ形を変えていく、改善していくことを永遠に考えながらやっています」
と楽しそうに答えてくださいました。
前と違うと言われることもあるそうですが、日々「より良いもの」を作り出していく、また時期や気温によっても変わってくる、その変化を楽しめるのがうつわならではの魅力ですね。
けずったものをさらに一晩寝かせ、古谷製陶所の特徴ともいえる「白化粧」をかけていきます。
白くあたたかみのあるうつわに仕上げるための重要な工程です。
つづいて「たたら」の工程を見学。
たたらとは、板状の土を使って、形を作っていく技法。
ろくろでは作り出せない八角形、四角、楕円の形をしたうつわの成形をする際に使う技法です。
また、一部の丸みを帯びたうつわも、たたらの技法で成形することも。
丸みを帯びた優しい印象になり、優しい風合いに仕上げたい白いうつわはたたらで成形することで、柔らかい雰囲気を作り出します。
また、土の硬さは板を使って調整します。
板が水を吸うので、丁度良い硬さに仕上げができるとのこと。
この工程はやらなくてもいい工程ですが、古谷製陶所では「あえて一手間」かけて行っているそう。
奥行きが出て、うつわの表情が変わり、より自然としたこだわりのある仕上がりになります。
古谷さんはこの一手間を
「誰もやらないことをやらないと、一緒の物しか作れない。確かにこの工程がなければだいぶ楽になるけど、あえてやっています。これは父からの教えでもあって。工程は増やして一手間かける、そしてあとの作業をいかに効率よく行うかで頑張ることを大切にしている」
とお話いただきました。
素焼きをしたあとはうつわの色味を決める釉薬を塗っていきます。
釉薬は都度測ることはなく、目で見る感覚やとろみ、かけ終わった後のうつわの表情を見て決めていくそう。
長年携わっているからこそ生み出される「感覚」です。
そして低い温度で一度本焼きをしたあとに焼いたうつわに刷毛で薬を塗っていきます。
その後、再度1,200度程度で本焼きを。
温度や焼き具合はうつわの種類によって変えるのではなく、温度帯に合わせて釉薬を変えていくことで調整していきます。
古谷製陶所は、日本全国でも珍しい「本焼きを2回する」ことにこだわる工房。
2度焼きをすることで、強度が強くなり、1回よりも趣のある雰囲気を作り出せるのだとか。
工程的には大変になるそうですが、ここでも「あえての一手間」をかけられていることが分かります。
また、本焼きをしたあとのうつわを見せてもらうと、うつわの仕上がりが同じ種類でも異なることが確認できます。
光沢が出ていたり色味が違ったり。
焼き上がりや気温、窯の中での位置で少しずつ変わっていくそう。
「うつわの魅力は”違いも含めて”お客様の好みがあるから、あえて仕上がりが違うものを楽しんでもらえたら」
と古谷さんは話します。
展示会に出すと、お客様の好みはさまざまで、5個なら5個並べて違いを楽しみながらじっくりと選ぶ人が多いとのこと。
同じもの(うつわ)であるはずなのに、選べる楽しさを感じられるのは、一つひとつ生み出されるうつわだからこそです。
工場に併設されているショールームも、より食卓に置いたイメージが分かるよう、ダイニングテーブルや小道具を置いて、サイズ感やデザインを確認してもらえるような仕様。
本当にご家庭の雰囲気に合う、最適なうつわを見つけられそうな空間でした。
また、最後に離れの空間をご紹介いただきました。
お客様からの声として「どうやってうつわを使えば良いか分からない」「うまくうつわを活用仕切れていない」という声をいただくそう。
そこで、何かできることがないかな、と思いついたのが料理教室やイベントに使えるスペースです。
壁には古谷製陶所のうつわがずらり。
自由に選んで、料理を楽しむことができます。
実際に使ってもらえることで、うつわの魅力や使いやすさを分かっていただけるのを目的にしています。
お父様からのこだわりやものづくりを学びながらも、常に新しいことを取り入れていく柔軟さ。
今日見学をさせていただき、一貫して感じたことです。
「楽しくないとやる意味がない。だからこそまずは僕自身が楽しんで。作っているときはもちろん、新しい発想が生まれる過程も楽しんでいます。いろいろな人と関わりながら作りあげていくのが楽しいですね」
と笑顔でお話いただきました。
すべての工程を妥協せず、一手間かけながら、てづくりで進めていく。
少人数のスタッフ体制ながらも、皆さん真剣に、楽しく働かれているのが伝わってきました。
ギャラリーと工房の見学、そして古谷さんをはじめとするスタッフの方々のお話を聞かせていただき、よりうつわへの気持ちが高まりました!手作りの過程を丁寧に見るのは楽しいですね。
最後に駅前の「信楽焼ミュージアム」へ
旅の最後に「信楽焼ミュージアム」で信楽焼についての総復習をしました。
入館無料で駅から歩いてすぐの場所にあるので、休憩がてら立ち寄れます。
信楽焼の歴史や、できるまでの工程を知ることができるので、信楽焼について知識を深めたい方におすすめです。
手作りのうつわのこだわりとぬくもりに触れる旅
今回は信楽焼の「古谷製陶所」さんを訪ね、うつわができあがるまでの工程や手作りへの想いなどをお伺いしました。
また、信楽には、地域に根付いて伝統を守り続ける窯元、そしてそんな信楽焼のうつわを生かす素敵なカフェがたくさんあります。
街全体で信楽焼の魅力を伝えよう、とそんな想いが伝わってくる場所でした。
手作りのうつわのぬくもりと、それを活用する地域の人々のあたたかさに触れた、とても素敵な旅になりました。
今回ご紹介した古谷製陶所さんのうつわは、こちらからご覧いただけます。
お気に入りのうつわで、毎日の食卓を楽しめますように。